不思議の国の軟体鉱物

2017-11

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『Respective Tribute』 第10章「贈り物」 Part4

 前→「贈り物」 Part3

 真っ赤な花に目を落としていたアリスは、ノックの音に顔を上げる。
「起きてるわ」
 誰が来たのか、彼女は予想出来ていたし、期待もしていた。そして予想と期待の通り、扉を開けたのは奈々子だった。
「今日も元気そうね、アリス」
 どこか安堵しているような表情で奈々子は微笑み、扉を閉める。
「……その花は?」
 奈々子の視線は、ベッドの上に置かれた贈り物に向けられていた。
「友達がお見舞いに来たのよ」
「そう……友達が来てたの」
 一瞬だけ訝しげな表情をして、奈々子が静かに言った。アリスはその友達であるベイビードールについて色々と尋ねられると思い、身構える。しかし奈々子はそれ以上の追及を口にせず、窓際まで歩いて行く。
「外はいい陽気よ。もうすっかり春って所ね」
「桜は咲いているかしら」
「もう見頃ね。貴女の回復が早ければ、お花見も出来るかも知れない」
「今すぐにでも行きたいわ」
「もう少し休まないと駄目。傷の治りは早いみたいだけど、もうちょっと辛抱して」
 その言葉を聞いて、アリスはつまらなそうに口を尖らしてしまう。確かに両手足は満足に動かなかったが、外を散歩するくらいは加速度の発生で可能だった。病院のベッドで過ごすのにも飽き飽きしていた彼女は、いっそこっそり外出してしまおうかと想像を膨らませる。
「かなり無茶したんだから、しばらくは大人しくしてて。心配になるから」
 釘を刺すような、奈々子の気遣い。先日の戦いにおいて散々奈々子を心配させた挙句、その彼女に助けられたアリスには、それを無視することなど出来そうになかった。
 たとえ退屈であろうと、安静に休息することが自分への罰であり、奈々子への謝罪である。そのように思えてしまったアリスの内心で、外出への願望は萎縮して行く。
「ごめんなさい、奈々子」
 口から出た謝罪。奈々子を煩わせていることに対する言葉ではあったが、それを発せさせたのは自身の無力さを悔やむ心情であった。
 自分がもっと強ければ、傷つくことも困らせることも、失うことも無かったのかも知れない。過ぎてしまった事柄への問いは明確な答えを成さずに、ただ後悔へと変わって行く。
「謝らなくていいのよ、アリス」
 奈々子はそう言って、バッグの中から1枚の布を取り出す。それをそっと、アリスの前にある花束の上に乗せた。
「貴女が前に言ってた通り、服のポケットに入ってたわ」
 アリスはその布を手に取る。少し汚れたハンカチ。それはホンシアから渡され、もはや返すことの出来なくなった品物。アリスの手元に残った、唯一の遺品。
「そのハンカチ、何か大切な物なの?」
 弱々しい筋力でハンカチを握り締めて、アリスは小さく頷く。
 ホンシアがこのハンカチを渡してくれたのは、自分を戦いに巻き込むためだったのか。それとも、泣いてしまった自分を本当に慰めようとしてくれたのか。その真実は決して分からない。
 分かっているのは、あの時の優しさが今も自分の心に残り、大切な記憶として思い出せること。
 それはアリスにとって、紛れもない真実であった。
「……私はね、奈々子」
 懺悔の思いが言葉となって、口から溢れる。
「誰も守れなかったの。大切な友達も、友達になれそうだった人も」
 未だに脳裏に残る、2人の死に顔。一片の力も感じられない、表情の終着点。
「もしも、私がもっと強かったら、2人を助けられたのかしら。また一緒に、色々な場所へ行って、楽しくお話もして、それで……」
 もはや存在しない可能性。潰えてしまった幾つもの未来を想像してしまい、アリスは胸が苦しくなる。
「私が、私があと少しでも強かったら……」
「……貴女がどんなに後悔しても、死んでしまった人のために出来ることなんて何も無いわ」
 アリスを諭すように、奈々子が言った。
「でもねアリス、貴女はまだ生きている。生きている限り、人は自分自身のために出来ることがある」

 次→「贈り物」 Part5

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