不思議の国の軟体鉱物

2017-05

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『Respective Tribute』 第10章「贈り物」 Part5

 前→「贈り物」 Part4

「自分自身のために……?」
「自分のために、自分が正しいと思うことをやればいい。死んでしまった2人との記憶が貴女の中で息衝いているのなら、それだけで彼らが生きていたことを示せるんだと思う」
「本当に、それだけで良いの?」
「それしか出来ないのよ、人間は。自分が正しいと思ったことしか出来ない。でも、その価値観は記憶に左右されている。大切な思い出は価値観に大きな影響を与えて、それは行動にも表れてくる」
 奈々子の右手が、アリスの長い髪をそっと撫でる。優しく、愛おしそうに。
「貴女は貴女らしく生きれば良いの。大事な記憶はみんな、貴女の一部になっているはずだから。貴女らしく生きるということは、それらを大切にするということでもあるの」
 自分らしく生きる。それは外の世界へと旅立つ前日にアリスが決めた、彼女にとって当然の生き方。だがその意味する所は、あの日と今では全く違うのだと、アリスには思えた。
 変わったのは言葉ではなく、自分自身。外の世界に出た自分は、少しずつ、そして劇的に、変わって行った。
 奈々子に髪を撫でられながら、彼女は思い返す。外の世界に憧れていた頃、全ては想像の中にしか無かった。外の世界を真似た数々の物が、自分にその想像を与えてくれた。そして本物はもっと素敵なのだと信じ、憧れた。
 だけど外の世界で過ごす内に、それだけでは無いことを知ってしまう。規則や不自由、汚さや複雑さ。理解できない事柄が綺麗な空や甘いお菓子、面白い物語と一緒に踊っていた。
 自分が信じていた世界と、自分が見たことも聞いたこともない世界。それらが混ざり合って、本物の世界だった。
 そんな世界で共に生きた、大切な人々。そんな人々と共に過ごした、大切な時間。ずっと憧れていた物とは違う、だけどそれ以上に鮮烈なもの。想像すら出来なかった思い出が自分を変え、「自分らしさ」を変えた。今のアリスには、それが実感出来ていた。
 旅立つ前の自分らしさ。それは素敵な物を夢見て、求めること。あの頃の世界は遠く、全ては夢物語だった。
 旅立った後の自分らしさ。それは自分が望むことをやり遂げること。目の前の世界に手を伸ばし、望みを叶えようとすること。
 近くなった世界が、近くなった人々が、アリスの価値観を変えていた。自分が望み、為せば、世界が応える。自分自身が確固たる存在であることを、世界と友人たちが教えてくれた。何もかもが思い通りでは無くとも、決して夢見るだけで終わるようなものは無いのだと。分からないことだらけの世界であっても、自分は前に進めるのだと。

 そしてアリスの中で、『女王』は「ルーシー」という個人になった。

 新たに得た認識が、絶対に届かない存在を自身の到達点へと変貌させた。奪われた命と失われた未来に対する想いが、嫌悪の感情を打倒の決意にまで高めた。
 もはやアリスには、無視することなど出来ない。誰のためでもなく、自分自身のために、倒さねばならなかった。彼女の一部となった思い出たちが、それを強く掻き立てていたから。
 止められない思い。自分の中にある過去と、届くかどうかも分からない未来を繋げる思考。
 それを表す、言葉。
 アリスは気付いた。自分に与えられた、その言葉に。

 次→「贈り物」 Part6

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