不思議の国の軟体鉱物

2017-07

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『Respective Tribute』 第10章「贈り物」 Part7

 前→「贈り物」 Part6

「……どうかしたの、アリス」
 ゆっくりと振り向いた顔は険しく、普段のような穏やかさも明るさも、そこには見えなかった。
「えっとね、奈々子……」
 そんな顔をしないで欲しいと、アリスは思う。だがどうすれば奈々子が笑ってくれるか、彼女には思い付かなかった。
 自分の夢が奈々子を不安にさせているのだとしても、夢を捨てることなど出来ない。その代わりに何かをしてあげたいと思っても、何をすれば良いのか見当もつかない。
「私が、貴女に出来ることって、何かある……かしら?」
 だからアリスは、奈々子自身に問い掛けた。自分の精神に存在しない選択肢を、もう1つの精神に求めた。
「貴女が、私に?」
 面食らったらしい奈々子は、驚きながら尋ね返した。
「珍しい、ううん、初めてかも知れないわね、貴女がそんなこと言うの」
 微かながら、笑み。
「そうだったかしら?」
「ちょっと気持ち悪いかも」
 アリスは「ひどいわ」と返し、奈々子は悪戯っぽく笑う。笑って欲しいというアリスの思いは、その手段を知ろうとする過程で果たされた。
「そうね、少しワガママを言わせてもらうなら」
 身体ごとアリスの方へ向き直し、奈々子が言葉を続ける。
「あんまり勝手に遠くへ行って欲しくないかな。やっぱり、心配だから」
 アリスはその言葉の中に、奈々子の寂しさを感じた気がした。まるで置いてけぼりを怖がる少女のような、そんな寂しさを。
「大丈夫よ、奈々子。私は勝手に何処かへ行ったりしないわ」
 その言葉に、奈々子は呆れたような微笑を浮かべる。
「行こうとしたくせに」
 それがルーシーとの戦いの朝を指していると、アリスはすぐに察する。
「えっと、あれは、ちゃんと帰ってくる……」
 帰ってくるつもりだったから。そう弁解しようとした時、アリスは気付いた。
 あの朝も今も、自分が成功のイメージしか心に浮かべていないことに。その一方で奈々子がきっと、失敗の可能性を考えていることに。
「アリス?」
 気遣うような奈々子の呼び掛け。彼女が最悪の事態を考えてくれたから、今の自分がいる。
 アリスは今更、その認識を得ることが出来た。
「……もう、あんな勝手なことはしないわ。奈々子が一緒にいてくれるから、私は私らしく生きられるんですもの」
 自分がこの国に来れたこと。不自由の無い日常を送れたこと。ルーシーと戦い、生きて帰れたこと。
 全ては、奈々子の力だった。
 「これからもずっと、奈々子と一緒に行くわ」
 それを聞いた奈々子が、顔を赤らめる。アリスは微笑みながら、無垢な眼差しで彼女を見つめ続ける。
「もう、何を突然言い出すんだか……」
 狼狽しながらも、奈々子の表情はどこか嬉しげにも見えた。

 次→「贈り物」 Part8

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