不思議の国の軟体鉱物

2017-10

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『Respective Tribute』 第10章「贈り物」 Part8

 前→「贈り物」 Part7

「貴女はホント、予測出来なくて不思議だらけなんだから」
 アリスは首を傾げて、問い返す。
「私が不思議だらけ?」
「ええ、そりゃもう。私にとっては、貴女は『不思議の国のアリス』以上に夢物語な存在なのよ」
 可笑しかった。可笑しすぎる言葉だとアリスは思った。
 私自身、自分が『不思議の国のアリス』の偽物だって思った時もあるのに。奈々子にとっては、その本物以上だなんて。
 あまりにも滅茶苦茶で、アリスはとても嬉しくなった。
「そうね、それだったら、むしろ光栄だわ」
 笑い合う2人。取り留めの無い会話が、アリスには心地良かった。
「まったく、あんまり調子に乗り過ぎないでね。もう少し常識を身に付けた方が本当は良いんだし」
 そう言った後、奈々子は何かを思いついたように「あ、そうか」と声を出す。
「ねぇアリス。貴女、戸籍を取ってみない?」
 唐突な提案に、アリスは目を丸くする。
「戸籍?」
 その言葉の意味は、おぼろげながらアリスも知っていた。
「自分がどこの誰なのか、証明する仕組みよね」
「そう。それがあれば身分証明が必要なことも出来るようになるわ。貴女が望むのならば学校にも通えるかも知れないし、色々な免許や資格を取ることだって出来る。自分専用の預金口座も作れるからウェブで買い物も出来るし、パスポートを取れば海外旅行も行けるわね」
 奈々子が列挙する可能性の数々。それは人間にとって普通のことでありながら、アリスには許されなかった日常。戸籍を得ることでそれらが可能になるのならば、それが意味することはひとつだった。
「つまり、戸籍を取れば人間になれるのね」
 アリスの言葉に、奈々子はしばし考える仕草をする。そして、頷いた。
「そうね、その通りだわ。戸籍を取れば社会的に人間として認められる。だけど、貴女が変わるわけじゃない。貴女に対する社会の接し方が変わるの。何処の誰でも無い人間っぽい何かじゃなくて、唯一無二の個人として扱ってくれるようになる」
 それを聞いたアリスの中で、イメージが広がっていく。
 自分が見つめて来た世界が自分を見つめ返す感覚。彼女が手を伸ばすと、世界もまた変化する。甘いお菓子も、綺麗な洋服も、色取り取りの景色も、街を行く人々も。
 決して、一方的などでは無い。全てが双方向に関わり合っている。
 アリスは自分の手が、その何もかもに届きそうに思えた。
「それは……素敵なことだわ」
 もはや外の世界など存在しない。奈々子からの贈り物が、アリスを世界に招き入れていた。
 彼女は、自分を取り巻く世界をさらに強く想像する。
 奈々子と楽しい日々を生きる現在。ローエングリンと共に色々なことを学んだ過去。ホンシアのような出会いが待っているかも知れない未来。
 そして、それら全ての先に見えるもの。過去から繋がっていて、現在を生き抜くことで辿り着ける、未来の果てにある到達点。
 世界の彼方で、ルーシーが笑みを浮かべていた。
 その場所を目指して、アリスは歩き始める。記憶の加速度を受け、感覚する全てを道標にして、前へ、前へと。旅路の途中で出会えるだろう、素敵な何かに胸を膨らませながら。
 奈々子と、一緒に。



 →あとがき

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