不思議の国の軟体鉱物

2017-06

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『Respective Tribute』 第2章「夜空にて」 Part6

 前→「夜空にて」 Part5

「途絶えてしまった彼女の行方が明らかになったのは、テロ組織からだったの。ある企業役員に対する暗殺、それを実行したのが、組織に雇われた暗殺者、つまり」
「ホンシア……」
 微かに震えの混じった声でアリスが言った。
「そう。それが2年前。その後も、いくつかの事件で彼女が関わった証拠があった。活動地域は主に欧米だったけど、今回は日本。それで私にお役が回ってきたってわけ」
「どうして奈々子なの?」
「今のところ、私は魔導士専門だからね。ホンシアが魔導士なのは既に分かっていたし、彼女は力も強かった。身柄を拘束するには空を飛べる魔導士が欲しかったんだけど、頼りになりそうなのは他の任務で今はいなくて。それで、今回は仕方なくアリスに……」
「仕方なくって……私って仕方なく、なの?」
「そういう意味じゃ無いわ。本当はこういう危険を伴うことは貴女にはやらせたく無かったのよ。だけど上からの命令だから、逆らえないし。貴女をいつまでも実験データを取るためだけの秘蔵っ子にしておくわけにも行かないから」
「それって、私を認めてくれたってことよね?」
「そういうこと」
 奈々子が肯定すると、アリスの表情が再び笑顔を取り戻した。本当にせわしない娘だと、奈々子は笑みをこぼす。
「大丈夫、こう見えても戦いには慣れてるもの」
 その自信ある言葉を微笑みのまま受け取った奈々子だったが、内心では不安を感じていた。ただのやんちゃな少女にしか見えないアリスに、暗殺者であるホンシアを捕獲することが本当に可能なのだろうか。
 重要なのは、戦闘員としてのアリスの力量。どうにかそれを量って、駄目そうなら自分が良い作戦を立てなければ。さもないと、襲撃は確実に失敗する。それは絶対に避けなければ。
「じゃあアリス、これからホンシアの手口と魔力について説明するから。対抗策を考えながら聞いてね」
 アリスが頷くのを見て、奈々子は端末の画面を切り替えた。
「ホンシアが使用してる武器は、もちろん狙撃銃。昨日貴女が見た長い銃ね。狙撃銃を使って長距離からターゲットを射殺するのは他のスナイパーと同じなんだけど、ホンシアは魔力を利用して、空中から狙撃を行っているのが特徴なの」
「昨日もそうしてたわ」
「ええ。空中から狙撃を行う人間なんて滅多にいないから不明な点が多いんだけど、さっきアリスが箱を固定したみたいに身体と銃の両方を魔力で固定してるんだと思う。恐らく相当な訓練を重ねたんだろうけど、これなら空中でもある程度は安定した射撃が行える」
 端末の画面に、ホンシアが行った狙撃のデータが表示される。
「あと、分かっている限りでは狙撃対象との距離はそこまで遠くない。300m程度の距離で、これだと命中率は上がるけど見つかる可能性も高いの」
「見つかっても、すぐに逃げられるんじゃないかしら」
「その通りよ。空を飛べるから確保するのは難しい。それに狙撃場所が建物の中や屋上に限られないから、屋外に関してはターゲットの位置にほとんど関係なく狙撃が出来るの。狙撃地点の変更もかなり自由だから、警備が手薄な所から撃って、それですぐに離脱する、というのが彼女の常套手段ね」
「ふーん……だけど、ホテルやマンションの中で撃たれてる人が多いわ」
 アリスは画面の一角、狙撃された場所のデータを指差す。ホテルや自宅マンションなど、高層の建物で狙撃されたケースは屋外で狙撃されたケースの2倍以上の数である。
「高層建築物内のターゲットに対する夜間の狙撃。これも彼女の得意技ね。昨日の事件もそう。通常なら、屋内の高層階にいるターゲットに関しては狙撃場所がかなり制限されるから、狙撃が難しいの。だけど、ホンシアならターゲットのいる階と同じ高さの空中で静止できる。これなら相手が窓越しにいれば狙撃が出来るから、夜景を見るとかで窓に近づいた相手を……ドーン!!」
 突然の大声にアリスがビクっと震えた。アリスの反応に奈々子は苦笑する。
「ひどいわ! 昨日もそれでとってもびっくりしたんだから!」
「ごめんごめん。高層階だとカーテンを閉めない人も多いから、ホンシアにとっては狙いやすい。夜なら見つかりにくいし、逃げるのも容易だから日中より安全に狙撃が行えるってわけ。この手口で、何人もの……特に企業役員を殺害してるのよ、彼女は」
「むぅ……」
 奈々子の話を聞いているのかいないのか、アリスは眉間に皺を寄せながら画面のデータを見つめている。対策を考えているようにも、理解できずに悩んでいるようにも見える表情だった。
「で……何か考えはある?」
 話を進めるため、奈々子は言葉を促す。
「ホンシアの銃って、とっても長いでしょ?」
 アリスはライフルを構えるジェスチャーをしたまま、右、左と上体を旋回させる。
「この銃だと、接近戦でかなり不利だと思うの。だから、接近戦に持ち込めれば楽勝だわ」
「そうかもしれないけど、どうやって接近するつもり?」
「それはそれ程難しくないと思うわ。きっとホンシアに会えるのは夜でしょうし、上手く動けば見つからないで近くまで行けるはずよ」
「他の武器を持っている可能性もあるでしょ。その時はどうするの?」
「武器を持ちかえるのに時間がかかるわ。その隙に攻撃すれば大丈夫よ」
「貴女を待ち伏せしてたらどうするの。初めから別の武器を構えてるかも知れないわよ」
「待ち伏せは無いと思うわ。私を襲うつもりなら、昨日やっていたもの。それに別の武器を持っていたら、逆に好都合よ。ギリギリで当たらないくらいの距離まで近づいて、そこから一気に接近すれば良いんですもの」
「……うーん」
 アリスの作戦を一言で言うのなら、「近寄って攻撃」である。作戦と呼ぶにはあまりにお粗末なものであるが、奈々子は情けなくもそれに勝る代替案を思い浮かべることが出来なかった。出会う場所は恐らく地上から遥かに離れた空中、何も無い虚空である。高層ビルを利用した作戦も考えられそうだが、いつ、何処で出会えるかも分からない相手であり、下手に距離を取るわけにもいかないスナイパーである。
 アリス以外の新たな戦闘人員も期待できないと思うし、取るべき戦法はやはり、接近しての短期戦。接近さえ出来れば十分に可能かもしれないけど、問題は……
「アリス、ホンシアに撃たれないで倒せる自信、ある?」
 アリスはニヤリと、歯を見せて笑う。
「当然よ」
「ホンシアも強力な魔導士なのよ」
「奈々子、私の魔力の強さ、測ったんでしょ?」
 奈々子はうっ、と言葉を詰まらせた。
「ホンシアの魔力って、どのくらい強いのかしら?」
 奈々子はノート型端末の画面に、ホンシアの魔力の計測データを表示させた。

 次→「夜空にて」 Part7

『Respective Tribute』 第2章「夜空にて」 Part7

 前→「夜空にて」 Part6

「ホンシアが16歳の時、魔導士の認定を取るために受けた検査のデータよ。使える魔力の種類は、加速度発生のみ。この時点でもかなり強いけど……」
 魔導士の認定検査は、魔力発生の資質をある程度持つ者ならばそのほとんどが受けている。公的な認定を受けることで特定の状況においての魔力の使用が許可され、魔力を利用した各種職業の試験を受けることが出来るためだ。
 その検査データによると、ホンシアの加速度発生能力は人間2人を宙に浮かすことも十分に可能であり、それは高層ビルの火災や災害などで救助が困難な場所に取り残された人間を救う特殊救助隊員として彼女が活躍出来たことを示している。
 だが、彼女は正反対の道を行った。よくある話だった。
「たとえ今現在、この1.2倍の力があってもアリスよりは低い……わね、かなり」
 奈々子が記憶の中にあるアリスの加速度と比べて、言った。アリスが魔力で発生する加速度はホンシアを凌駕している。人間以上を誇るアリスの身体能力、反応速度も考えると、相手は対応することもままならない。
 即ち、圧倒する。
「大丈夫、でしょ」
 アリスが微笑む。
「はぁ……分かった、認める。貴女なら傷一つ負わずにホンシアを捕まえられる。間違いないわ」
 さらに口元を緩ませるアリス。
「それで、武器はどうするの。拳銃くらいなら調達できるけど」
「武器なら心配ないわ。私も持ってるもの」
 そう言ってアリスは立ち上がり、クローゼットの中をがさごそと漁り始める。そして、漫画本や洋服の山から長い棒状の物体を発掘した。
「それって……」
 アリスが掲げた「それ」に、奈々子は目を丸くした。
 そういえば、アリスを日本に連れてくる時に「それ」のせいで手間取ったんだったわ。ただのガラクタだと思ったけど、アリスにとってはとても重要な物らしくて、だけど「それ」が一体何なのか、分からなかった。いや、一目瞭然とも言えたけど。
 それを形容すべき言葉は、1つしか無かったから。
 アリスが右手で高々とかざした「それ」は、赤と銀の2色で塗られ、一方の先端は扁平な爪、もう一方は直角に曲がり、先端には二股の爪があった。1m近いと思われる長い「それ」の表面には刻印がいくつもあり、その刻印だけが「それ」がただの工具とは何かが違うことを感じさせていた。
 だが、「それ」はまさしく『バールのようなもの』であった。
「結局、その『バールのようなもの』は……何?」
 訝しげな表情の奈々子に対し、アリスは自信たっぷりに言った。
「『バールのようなもの』よ」

 昼食を外で食べた後、アリスを部屋まで送り終えた奈々子。独り、車の中で背もたれに体重をかけながら、目を閉じた。
 それにしても、腑に落ちないわね。
 事件は2件、確かに起きている。だけどそれらの事件に関する報道は一切無い。世界的にテロ活動が増加しているとはいえ、日本では狙撃事件なんて滅多に起こらない大事件だ。それが報道されないとなると、やはり報道規制がかかっているのかも知れない。
 それよりも気になるのは、捜査班だけど。
 ホンシアと秘密裏に接触し、確保する。仮にも狙撃事件の犯人なのに、だ。捜査班と話がついているのが普通だけど、ウチの係が独自に判断したとも考えられる。
 前者だとしたら、報道がされないのは捜査班がこちらのホンシア確保に協力しているからだろう。確保した後、魔導士として運用することを考えると、事件は無かったことにすべきであるから。そう考えると一見、辻褄が合いそうだが、だとしたらこんな重大な任務をアリスだけに任せるのは不自然過ぎる。
 かといって後者だとしたら、謎が多すぎる。報道規制の謎、捜査班との関係の謎、そしてやはり、アリスに任せるという判断の謎。どう考えても、アリスだけに任せるべき任務では無い。
 そこに何か思惑があると考えるべき。奈々子はそう結論付けた。
 何よりこの事件、ホンシアの行動にも不可解な点がある。過去の事件は企業幹部など、大物を狙った事件ばかりだったのに、今回の事件の場合はただの会社員、本当に何の変哲も無い2人の人間を殺している。しかも2人の被害者には共通点が全くと言って無い。アリスが目撃していなければ、別の犯人を疑っても良いくらいだった。
 被疑者の目的、報道がされない理由、確保任務の不可解さ。こんな怪しい任務にアリスを巻き込んだことは、やはり失敗だったかも。たとえ命令だとしても、これだけ不審な点があれば断ることも出来たはずだわ。
 摩天楼の上に浮かぶ、亡霊のような魔導狙撃手、シュウ・ホンシア。もしかしたら、彼女に興味を抱き過ぎたのかも知れないわね。
 奈々子は自嘲気味に笑い、目を開けた。
 過ぎたことはどうでも良い。それよりも、この件に関して調べることが重要だわ。捜査班に関すること。報道規制は誰が行っているのか。それと、上司の動きも。ホンシアの目的も、もしかしたらその辺りから分かるかもしれない。どうせ魔力犯罪係なんて暇なことこの上ないんだから、時間は充分にある。アリスの危険を減らすためにも、何が起こっているかはちゃんと把握しないとね。
 奈々子は車のエンジンを始動させ、アクセルを踏む。発車などの一部の動作は自動運転で行える車だが、奈々子はそんなものは使わない。
 自分の周りにあるものくらいは、せめて自分の好きなように。
 自分が納得出来るように。

 次→第3章「再会」 Part1

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